"Vespro"のナゾ Vol.5


ヴェネツィア様式に基づく演奏形態

A: 2重合唱形式の曲:
8声、ないし10声の合唱を同編成のふたつの合唱団に分 けて編成する。4.Laudate Pueri (8声)や 8.Nisi Dominus 、10.Lauda Jerusalem , 12.Ave maris Stellaなどがこれである。

B: ソロと合唱:
ソリストたちと合唱団に分けて配置する。

C: 詩編唱の伝統による:
詩編の奇数行と偶数行を2つに分かれたそれぞれの聖歌隊が歌い交わす。
B:, C: の要素を合わせ持ったのが 2.Dixit Dominus と 6.Laetatus Sum と 考えられる。 すなわち、2.Dixit Dominus では奇数行のソリスティックあるいは コンチェルト風の様式と、偶数行の特徴的なフォーブルドン(フォルソ・ボルドーネ)とは はっきり区別されているし、6.Laetatus Sum でも奇数行で繰り返し通奏低音の Walking Bass が聞かれ、おおむねソリスティックなフレーズが多く、それに対して 偶数行はやや古風なむしろ合唱向きの書法ではないかと思われる。

以上、A:, B:, C: の様式別に各曲を挙げたが、各要素を組み合わせる事も考えられる。

また、上に挙げた分類に最も当てはまらないのは 4. Laudate Pueri だろう。 定旋律(詩編の旋律)は、ほとんどいずれかの声部で歌われているが、曲の構成などは 比較的自由で、気まぐれな性格を持っているようである。 いろいろなものが次々と現れて、 聞くものを惑わせる。 特徴的なのは、さまざまな声部に受け継がれて歌われる 詩編の定旋律と、それに絡みつく2重唱(ソプラノ、テノール、ベース、の順で出る) の部分である。 前述のC:の要素を考えるとやはり、定旋律の歌い交わしを効果的にすべく 配置を決めるべきだろう。

また、1.Deus in Adiutorium も C:を使うと Domine ad Adiuvandum me festina. と Gloria Patri, et Filio, et Spiritui Sancto. と Sicut erat in Principio et nunc, et semper ... 以下の歌い交わし、という解釈が成り立ち、 先唱の Deus in Adiutorium meum intende と Gloria Patri, et Filio, et Spiritui Sancto.を、独唱者たち、残りを合唱とすることもできる。 つまり、ソロと合唱の かけ合いである。


"Vespro"のナゾ Vol.6ヘ続く

"Vespro"のナゾ (補追)「詩編曲について」を読む

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