「どちりなきりしたん」は、戦国時代から江戸初期、キリスト教伝来から禁教に至るまでの間に使われていたキリシタン書や聖歌や当時の俗謡をテキストにして、架空のキリシタン信仰世界を描いた合唱曲です。
第一曲
テキストは日本人修道士 不干斎ハビアンによって書かれた『妙貞問答』より取られています。『妙貞問答』は最初の日本人の手によるキリシタン書。日本が生んだキリスト教の教えが言葉を大切に歌い紡がれます。 曲の最後には『サカラメンタ提要』より “Veni creator Spiritus” が歌われます。(『サカラメンタ提要』は、日本に向けた布教のための儀式書でグレゴリオ聖歌も所収されているキリシタン書。)
第二曲
南蛮文化を思わせる歌謡・俗謡をテキストとしています。メロディー自体は作曲家によるもの。 曲の最後には『サカラメンタ提要』より “Tantum ergo” が歌われます。 流行の俗謡も聖歌も同じように歌われていた当時を夢想させられます。
第三曲
キリシタン書『どちりなきりしたん』とミサ通常文より Kyrie, Gloria をテキストとしています。 師と弟子による問答体による掛け合いとミサ通常文が同じ曲内で歌われる様は、キリシタン時代の信仰・文化の盛り上がりそのもののようです。
第四曲
テキストはキリシタン書『こんてむつすむん地』より、原書は現在でも読まれているイエズス会による『イミタティオ・クリスティ』(キリストの模倣)。 禁教迫る中に書かれたこの書は、キリストに倣って殉教する心得を伝えるために広まったものとも言われています。 第二曲と同じく終盤には “Tantum ergo” が歌われます。神の栄光を讃える最後は、華やかなキリシタン時代の信仰の隆盛を思わせます。
第五曲
聖歌 “Ave Verum Corpus”。 日本キリシタンの苦難とキリストの受難を重ね合わせているのでしょうか。レクイエムのようにも思えます。 かつての隆盛とその後の苦難に思いを馳せつつ曲は閉じられます。