演奏曲目紹介
◆ T. L. de ビクトリア / Vere languores nostros -まことにその方は私たちの病を-
"Vere languores nostros"はルネサンス期最大の作曲家の一人、ビクトリアの作品の中でも屈指の名曲です。テクストはイエスの十字架の受難を描きます。イエスが傷を受け私たちが癒されたため厭わしい筈の十字架や釘も愛しいものとなったと言っています。成す術なく刑死した方が 実は天の王たる方であったという相反することが音楽の中で見事に一体となっています。演奏を通じて痛みや悲しみだけでなく感謝や希望もお届けできればと思います。
◆ H. シュッツ / Cantate Domino cantuicum novum -歌え主に 新しき歌を-
後に「ドイツ音楽の父」と呼ばれるシュッツがヴェネツィアへ留学しジョヴァンニ・ガブリエリのもとで最新のイタリア音楽を学んだのは弱冠21歳の時でした。その成果が遺憾なく発揮された合唱曲集「カンツィオーネス・サクレ」の中から "Cantate Domino canticum novum" を演奏します。華やかなメリスマによる旋律と各声部の掛け合いに始まり、各声部が同時に歌うホモフォニックな部分と交代を繰り返しながら軽やかに駆け抜けます。器楽による協奏曲の要素もあり金管楽器や木管楽器といった音色の変化がお楽しみいただければ幸いです。
◆ A. ブルックナー / Christus factus est -キリストは私たちのために-
アントン・ブルックナーはオルガニストであった父の薫陶を受けて少年時代からオルガンを弾き、壮年期には教会オルガニストとしての地位を確立していました。敬虔なカトリック教徒であった彼は管弦楽を伴う大規模な宗教曲やモテットを残しています。"Christus factus est" は彼が60歳の時に作曲されました。大聖堂に響き渡るような音響設計はオルガニストの面目躍如というところでしょうか。十字架の死を悼むような低音と転調を重ねながら高みに昇ってゆく対比の見事さ。また、囁くような最弱音と叫びにも似た最強音の対比も聴きどころです。
◆ G. フォーブス / O nata lux -おお 光より生まれし光-
ガイ・フォーブスは米国ミリキン大学室内合唱団の指揮者であり作曲家でもあります。本日演奏する "O nata lux" は彼の最初の4声体作品で2006年に作曲コンテストで優勝すると米国中の大学合唱団で愛唱されるようになりました。曲は男声と女声が呼び交わすように始まり、各声部が次々にイエスへの願いを歌います。暖かい光でいっぱいに満たされる幸福感をともに感じていただければと思います。
(テノール 笹川 馨)
◆ C. モンテヴェルディ / Magnificat a 6 voci -6声のマニフィカト-
モンテヴェルディ連続演奏シリーズ、今回は「6声のマニフィカト」を演奏いたします。
モンテヴェルディの最高傑作と呼ばれる1610年の「聖母マリアの夕べの祈り」に付随する形で出版された作品です。編成は合唱と通奏低音のみ。合唱もずっと6声ではなく2声となり3声となり、時に1声となり、など変化に富んでいます。それだけに合宿団の力量も問われます。 小さな編成ではありますが、バロック音楽への扉を開いたモンテヴェルディの魅力にあふれた作品です。
(ベース 竹内 幹)
◆ 木下 牧子 / 混声合唱とピアノのための いのちの木を植える
谷川俊太郎氏による、環境問題と植樹活動をめぐる近作詩「木を植える」(マガジンハウス刊『いのちの木を植える』に収録)と、既刊詩集の木について詠んだ3作品に木下牧子氏が作曲した、全4曲からなる組曲です。初演では混声合唱と児童合唱で演奏されましたが、今回は混声合唱のみでお届けします。
- 「樹下」
- 作曲者を惚れ込ませたという非常に哲学的な詩に、複雑なハーモニー進行が合わさり、幻想的な響きの世界が広がります。
- 「梨の木」
- シンプルながら深い内容が、美しい日本語と透明なハーモニーで表現されています。
- 「木」
- 畳みかけられる〔ki〕という響きで際立ったリズムと、ダイナミックな躍動感に溢れる曲です。終盤では熱く静かに言葉が語られ、終曲へと繋がっていきます。
- 「木を植える」
- 親しみやすいメロディと骨太のハーモニーで、力強いメッセージを持った詩が伸びやかに歌い上げられます。ピースで歌われる時とはまた違った、組曲の終曲として圧巻のフィナーレを飾ります。
曲の世界を鮮やかに彩るピアノと共に、確かに前へと進んでいく音楽をお届けできればと思います。
(ソプラノ 雲財 知)