以前からドラマなどで金子みすゞの生涯については多少は知っていた。今度の演奏会で歌うことになり、改めてその詩に触れて心惹かれるものを感じていた。7月のある日ふと立ち寄った書店で「金子みすゞ 生誕一〇〇年記念」と銘打ったムックを見つけ、買って帰った。ページをめくるうち、みすゞの詩の世界が不意に身近なものになった。そして彼女が生まれ育った仙崎(山口県長門市)という町がどんなところか行ってみたいと思うようになったのだ。
数日後の連休の前日、インターネットであれこれと仙崎について調べていると、翌日が仙崎の祇園祭の日だと分かった。その場で民宿を探し、仙崎行きを決めた。“またやっちゃったよ”と思いながら、いつもの「勢いで行く旅行」が始まった。
仙崎へのアクセスは、小郡と新下関の間の「厚狭(あさ)」という駅で新幹線を降り、美祢線というローカル線に乗り換える。今、美祢線には「金子みすゞ号」という快速電車が1日に上下1本ずつ運行しており、仙崎へのアクセスは随分よくなっているようだ。しかし、ここは敢えて各駅停車に乗車することにした。接続の時間の関係もあるし、何より旅から「過程」を排除してしまったら残るものは少ないとの思いからだ。ワンマンの1両電車に揺られて約1時間20分後に仙崎についた。日本海に突き出た小さな半島の町だ。吹きつのる風と雨…。九州では災害も起きているという悪天候。どんな旅になるのだろうか…。
港に程近い民宿に荷物を預け、観光船乗り場へ。半島の先端にある青海島を巡る観光船も仙崎の古くからの観光の目玉だ。今日の夕方がよいか、明日乗ろうか、予定を立てるため就航状況を伺っていると、突然携帯の呼び出しが…。モンテ団員のHからの連絡だった。
“今仙崎にいるんですけど”
はぁ? そういえばヤツは帰省か何かで長崎へ向かった挙句、九州の大雨で立ち往生していたはずだが…。
“雨で進めないんでこっちへ回って来たんですよ。今『みすゞ記念館』の向かいのお土産屋さんにいて、
今から限定のウニ丼食べるんですけど…来ませんか?”
こんなオイシイ話を持ってきてくれるなんて案外いいヤツかもしれないなあ、などと考えながら一も二もなく合流を決めた私。汗をかきながら雨の中を「みすゞ記念館」を目指す。